秋の軽井沢で天然きのこの料理を、とお考えの方もいらっしゃると思います。ただ、きのこの季節は秋だけではありません。
信州の森では、七月ごろから何かしらが出はじめ、十一月の半ばごろに静かに終わります。そのあいだ、顔ぶれは月ごとに入れ替わっていきます。
この記事では、私たちが森を歩きながら見てきたことをもとに、季節がどう動いていくのかをまとめました。山のものを扱うときに気をつけていること、そして採れたものがどう一皿になるのかも、あわせてお伝えします。
きのこの季節は、七月から十一月半ばまで
きのこの一年は、こんなふうに動いていきます。種類は少ないけれど春から出てくるものがあり、七月ごろになると夏のきのこが数種類、八月の末ごろまで採れます。九月からが本格的な季節で、いろいろな種類が移り変わりながら顔を出します。信州は冬の寒さが厳しいので、最後は十一月の半ばごろまでです。おおよそ、そんな一年です。
きのこは秋のもの、という印象が強いと思います。ただ実際には、夏のあいだからもう森は動いています。
七月から八月末ごろ、夏のきのこ
この時期に顔を出すのが、タマゴタケやアカヤマドリタケ、ヤマドリタケモドキです。雨が続いたあとに山へ入ると、乾いていたころには何もなかった斜面に、いくつも並んでいることがあります。
香茸もこのころのきのこです。ただ、本来なら七月にまとまって採れるはずが、暑さのせいかほとんど採れなかった年もありました。夏のきのこは、出る年と出ない年の差がはっきりしています。
九月から、本格的な季節へ
九月に入ると種類が増えます。ショウゲンジ、私たちはコムソウとも呼びますが、これもこのころのきのこです。毎年出る場所へ何度も通って、ようやくひととおり採れる年もあります。量が読めるものではありません。
山のきのことは別に、この時期には佐久穂町の生産者さんから舞茸が届きます。こちらは原木栽培の舞茸です。野生の舞茸が育つ環境に限りなく近い状態をつくり、それを保ちながら育てておられます。カビや他の菌に侵されないよう手をかけ続け、数年かけてようやく形になるお仕事だと伺っています。
十一月、シーズンの終わり
晩秋になると、シモフリシメジやクリタケが出てきます。そして、ムラサキシメジが出はじめたら、その年のきのこの季節が終わりに近いという合図です。これを採ると、フィナーレを感じます。
森が動き出すのは、雨のあとから
天然きのこは、気温が下がることよりも先に、土と落ち葉が湿ることを待っています。夏の終わりに、いつもの山へ入ってみたときのことです。雨が少なく、土も落ち葉も乾き気味でした。これでは、きのこに出番が回ってきません。
そこで、その日は標高の高い山まで足を伸ばしました。山肌はしっとりと湿っていて、出はじめのアカヤマドリタケに出会えました。同じ日の同じ地域でも、雨が降った山と降らなかった山とでは、森の中で起きていることが違います。
森へ入るたびに思うのは、食材を探しに来ているというより、季節に会いに来ているのだということです。その日の風や湿り気を確かめる時間までが、料理をつくる時間の一部になっているのだと考えています。
天然きのこは、ご自身では採らないでください
ここは、お伝えしておきたいところです。長野県は、有毒きのこへの注意を呼びかけるページを出しています。そこには、例年、長野県では九月から十月にかけて誤食による食中毒が発生している、と書かれています。そして、そのほとんどが家庭で発生しているとのことです。
同じページでは、防止のポイントが四つ挙げられています。
一つめは、わからないきのこは採らない、食べない、売らない、人にあげないこと。二つめは、きのこの特徴を完全に覚えること。よく似た毒きのこの特徴と比べながら、確実に鑑別できるようにする、と説明されています。
三つめは、わかっていても、もう一度よく確認すること。毎年採って食べているきのこでも、同じ時期や場所に、類似した毒きのこが生えている場合があるためです。そして四つめが、誤った言い伝えや迷信を信じないことです。
県は、「柄が縦に裂けるきのこは食べられる」「ナスと一緒に煮ると毒消しになる」といった言い伝えを、誤りだと明記しています。長野県は、九月二十日から十月十九日までの一か月間を「きのこ中毒予防月間」と定めてもいます。
私たちが山へ入れるのは、長年かけて覚えた山と、判別できるものだけを扱っているからです。少しでも迷うものは持ち帰りません。行楽で軽井沢へお越しの際は、どうぞ森の景色のほうを楽しんでいただけたらと思います。
採れたものが、一皿になるまで
山から戻ると、その日の食材を前に献立を考えます。天然きのこは、量も状態もその日次第です。ですから、先に決めた献立に食材を当てはめるのではなく、採れたものから組み立てていくことになります。
そこへ、佐久穂町の原木栽培の舞茸のように、生産者さんが時間をかけて育てたものが加わります。森の恵みと畑の恵みは、育つ場所も季節の進み方も違いますが、同じ土地のものです。ひとつの皿の上に並べてみると、その季節の信州がそのまま映ります。
きのこは、種類によって香りの出方がまるで違います。だしのように広がるものもあれば、火を入れて初めて立ち上がるものもあります。その食材が最も輝く表現を選ぶと、皿ごとに組み立てが変わっていきます。和の食材が隣に並ぶ日もあります。
メリ・メロだから、この組み合わせになる。
森や畑から届くものについては、信州の食材のページでもふれています。
秋の軽井沢で、季節をいただく時間
メリ・メロがあるのは軽井沢町長倉です。テーブル十六席とカウンター四席の小さなフレンチレストランで、静かな店だとよく言っていただきます。
山へ入るのは私たち自身です。長野県小諸市の生まれで、その日の森の様子を見てから、何を皿にのせるかを決めています。天然きのこが出るかどうかは、その年の雨と森の状態しだいです。いらしていただいた日に何をお出しできるかは、山が決めることになります。
ディナーと一部のランチコースでは、メイン料理のあとに、その季節の恵みを炊き込んだ〆のStaubご飯をお出ししています。なお、季節によって営業の形が変わりますので、お越しの前にアクセス・営業時間のページをご確認ください。コースの構成はおまかせコースと料金のページにまとめています。
雨が降り、森が湿り、きのこが出る。その順番を待つ時間ごと、秋の信州を味わっていただけたらと思います。