秋が深まると、レストランのお品書きや雑誌の特集で「ジビエ」という言葉を見かけることが増えてきます。鹿やイノシシの肉のこと、となんとなくわかっていても、どこまでをそう呼ぶのか、なぜこの季節に多いのかまでは、意外と知られていません。
ここでは、農林水産省や厚生労働省、環境省の説明をもとに、ジビエの意味と時期、食べるときに気をつけたいことを整理しました。後半では、信州の山から届いた肉を、私たちがどんな一皿にしてきたかもお話しします。
ジビエとは。食材になる野生の鳥獣を指すフランス語
農林水産省は、ジビエ(gibier)を「食材となる野生鳥獣肉のこと」をいうフランス語だと説明しています。牧場や畜舎で育てられた牛や豚ではなく、山や野で暮らしていた鹿、イノシシ、鳥などの肉です。
厚生労働省は、もう少し具体的に説明しています。「シカ、イノシシなど、狩猟や有害鳥獣として捕獲の対象となり食用とする野生鳥獣、またはその肉」。つまり、猟で獲ったものだけでなく、畑を荒らすなどの被害を防ぐために捕獲されたものも含まれます。
家畜との大きな違いは、育ち方が管理されていないことです。厚生労働省も、ジビエは家畜と違って飼料や健康状態の管理が行われていない、と書いています。何を食べ、どの斜面を歩いてきたか。山の肉は、処理の仕方や獲れる時期によっても印象が大きく変わります。
農林水産省は、「害獣」とされてきた野生動物が、食文化を豊かにする食材や、山間部を元気にする地域資源とみなされるようになってきた、とも紹介しています。山の暮らしと食卓が、肉を通してつながっているのだと思います。
ジビエの時期はいつか。猟期は十一月十五日から
ジビエが秋から冬の言葉として語られるのは、狩猟のできる期間が決まっているからです。環境省によると、北海道以外の区域の狩猟期間は、毎年十一月十五日から翌年二月十五日までです。北海道は十月一日から翌年一月三十一日までと、少し早く始まります。猟区の中では、北海道以外で十月十五日から翌年三月十五日までです。
法律のうえでは、もっと長い枠があります。鳥獣保護管理法の狩猟期間は、十月十五日(北海道は九月十五日)から翌年四月十五日までです。主に安全のために、農林業の作業の時期や、葉が落ちて山の見通しがきく季節などを考えて定められています。そこから鳥の繁殖や渡りの時期を考え、施行規則で先ほどの期間に短くしているという仕組みです。
さらに、狩猟の対象の鳥獣や都道府県によっては、猟期を延ばしたり縮めたりしている場合がある、と環境省は書いています。地域ごとに細かな違いがあるので、ここでは全国の基本の期間だけを挙げておきます。
厚生労働省も、秋から冬の終わりにかけての時期は狩猟期間のため、ジビエという言葉をよく聞くようになった、と書いています。木々の葉が落ち、山が静かになるころが、ちょうどジビエの季節にあたります。
一方で、狩猟とは別に、農林水産業への被害などを防ぐため、都道府県知事などの許可を受けて行う捕獲もあります。こちらは許可ごとに期間が決められるので、猟期の外の季節に鹿の肉が届くこともあります。昨年の八月には、高山村で獲れた夏の鹿をお出ししました。
信州の山から届く、鹿とアナグマ
当店では、信州の高山村で山の肉を専門に扱っているところから、アナグマなどを仕入れています。いつもお世話になっているところです。
昨年の夏の鹿は、赤ワインと香味野菜、それに黒文字という木と一緒にマリネしてから、グリルにしました。ソースには、軽井沢サラダふぁーむさんで採れたばかりのブルーベリーを乳酸発酵させて使いました。鹿のマリネ液と合わせて、森とベリーの香りが重なるように仕立てています。
秋が深まった年には、アナグマとツキノワグマを合わせて、冷製オードヴルのパテにしたことがあります。アナグマは全身が脂に覆われたような姿をしていますが、その脂には独特の甘みがあり、口に入れると軽く溶けていきます。重たさを想像していると、少し驚かれるかもしれません。
二〇二四年のパテは、山の木の実である山葡萄のゼリーで包みました。山の肉に、同じ山で実るものを合わせてみたかったのです。翌年は、ルバーブと赤ワインのジュレで覆っています。メリ・メロだから、この組み合わせになる。
ただ、ジビエは頼めば届くものではありません。猟の具合や、その年の山の様子しだいです。アナグマも、お願いしていた年には手に入らず、次の年になってようやく届いたことがありました。だから、いつ、どの肉をお出しできるかはお約束できず、届いた年に、届いたものでコースを組んでいます。
ジビエを食べるときの注意。生では食べない
ジビエを味わうときに、いちばん大切なことがあります。生や、火の通りが足りない状態では食べないことです。
厚生労働省は、生または加熱不十分な野生の鹿肉やイノシシ肉を食べると、E型肝炎ウイルスや腸管出血性大腸菌、寄生虫による食中毒のリスクがあるとしています。E型肝炎は、とくに妊娠中の方が重症化する割合が高いとされています。
寄生虫の旋毛虫(トリヒナ)は冷凍に強く、凍らせても死なないと説明されています。国内ではクマ肉を原因とする食中毒の報告もある、と厚生労働省は書いています。冷凍しておいた肉だから大丈夫、とはいえないということです。
そのうえで、厚生労働省は「中心温度75℃で1分間以上加熱」するよう呼びかけています。表面だけでなく、中心まで火を通すこと。肉を扱った手をよく洗い、包丁やまな板は洗ってから熱湯などで消毒すること、焼く箸と食べる箸を分けることも勧められています。調理の途中でも、皮膚の傷から血液を介してE型肝炎ウイルスがうつるおそれがあるとされています。ご家庭でジビエを調理するときは、お店で買い求めたものでも、知り合いから譲り受けたものでも、こうした点に気をつけてください。
信州の冬を、山の肉とともに
猟期が始まる十一月は、軽井沢の店の営業も冬の形に変わるころです。例年、十一月ごろからはランチを休み、ディナーだけの営業に切り替えています。四月上旬ごろまでの予定で、切り替えの時期や夜の開店時刻は年によって変わります。日程が固まったら、このサイトでご案内します。
コースの内容と料金はおまかせコースと料金に、季節ごとに届く食材は信州の食材にまとめています。その年に山の肉が届いたかどうかは、シェフの独り言でお伝えすることが多いです。
ジビエが苦手な方や、妊娠中などで召し上がれない食材がある方は、ご予約の段階でお伝えください。献立をおまかせでご用意するため、ご来店当日の変更はお受けできません。
猟師さんの手を経て、山から厨房へ届く肉。その一皿の向こうには、葉を落とした信州の森が広がっています。寒さが増していく季節に、山の恵みを味わいにいらしてください。
※ ジビエの意味は農林水産省「ジビエ利用拡大コーナー」(更新日 令和8年9月)と厚生労働省 WEBマガジン「食中毒予防:ジビエは中心部までしっかり加熱して食べましょう」、狩猟期間と捕獲の許可は環境省「狩猟制度の概要」「捕獲許可制度の概要」、食べるときの注意は同 WEBマガジンと厚生労働省「ジビエ(野生鳥獣の肉)の衛生管理」をもとに、要約・編集しました(閲覧日はすべて2026年10月)。