りんごの料理と聞いて思い浮かぶのは、たいていデザートです。私たちの店でも、りんごはデザートに仕立てることの多い果物でした。それでも2024年の秋、紅玉をスープにしてみたことがあります。
九月も半ばを過ぎると、信州の果物は少しずつ顔ぶれを変えていきます。夏から続いた葡萄に、洋梨とりんごが加わっていく季節です。長野県はりんごの産地として知られていますが、品種が多く、どれがいつ出回るのか、案外つかみにくい果物です。ここでは、主な品種の時期の目安と、長野県で生まれた三つの品種、そして料理に向くりんごのことをまとめました。
信州のりんごはいつから?品種ごとの時期の目安
信州のりんごは、八月のつがるなど早い品種から始まります。九月の終わりから十月にかけて長野県生まれの品種が次々と出てきて、十一月ごろのふじへと、ほぼ途切れずに続いていきます。
下の表は、長野市に本所を置くJAグリーン長野が紹介している、主な品種の収穫期です。同じ県内でも、標高や地域、その年の天候によって時期は前後します。
| 品種 | 収穫期の目安 |
|---|---|
| つがる | 八月中旬〜九月上旬 |
| 紅玉 | 九月中旬〜十月上旬 |
| 秋映 | 九月下旬〜十月上旬 |
| シナノスイート | 十月上旬〜十月下旬 |
| シナノゴールド | 十月中旬〜十二月中旬 |
| ふじ | 十月下旬〜十一月中旬 |
ふじのうち、袋を掛けずに育てたものは「サンふじ」と呼ばれます。JAグリーン長野では出荷されるふじのほとんどがサンふじで、その収穫期は十月下旬〜一月中旬と案内されています。
なお長野県果樹試験場の資料では、シナノゴールドは育成地の須坂市で十月中旬から下旬に熟す品種とされています。貯蔵性に優れることも、この品種の特長に挙げられています。
表を見ると、九月の終わりから十月にかけて、並ぶ品種がいちばん目まぐるしく変わることが分かります。軽井沢の木々が色づきはじめるころ、信州のりんごもにぎやかな時期に入っていきます。
「りんご三兄弟」とは。長野県で生まれた三つの品種
りんご三兄弟とは、長野県で生まれた秋映、シナノスイート、シナノゴールドの三品種をまとめた呼び名です。全国農業協同組合連合会(JA全農)の商標で、JA全農長野がこの名前で紹介しています。
秋映は、中野市のりんごの生産者さんが「千秋」と「つがる」を掛け合わせて育てた品種です。熟すと黒みを帯びた濃い赤になり、果汁をたっぷりと含みます。
シナノスイートとシナノゴールドは、須坂市にある長野県果樹試験場が育てました。シナノスイートは「ふじ」に「つがる」を掛け合わせた品種で、1996年に品種登録されています。名前のとおり甘味が強く、酸味は控えめです。
シナノゴールドは「ゴールデン・デリシャス」と「千秋」の組み合わせで、1999年の登録です。甘味と酸味の釣り合いがよく、黄色い皮をしています。イタリアの南チロルでも育てられていて、2016年には長野県と現地の生産団体がライセンス契約を結びました。
この二つの品種には、生まれる前から役目がありました。九月ごろのつがると十一月ごろのふじのあいだ、十月に収穫できる品種がほしい、という産地の声です。長野県農業関係試験場の紹介では、それが育種の大きな課題だったとされています。
寒さと標高が、色づきを決める
信州のりんごの色づきには、秋の冷え込みと、土地の高さが深く関わっています。
長野県農業関係試験場によると、長野県はりんごの主な産地となっている県の中で、最も南に位置しています。そのぶん早く出荷できる一方、実が熟す時期の気温が高く、色がつきにくいという難しさを抱えてきました。県の試験場では、はじめから色づきがよくおいしい品種を目標の一つにしてきたと紹介されています。
秋映は、その違いが分かりやすい品種です。中野市のような冷え込む地域や標高の高い土地では、表面に冷たい空気がしっかり当たり、熟したときに黒っぽいほど深い色になります。暖かい土地で育つと色づきが浅く、ふつうの赤いりんごに近い色になるといいます。
シナノスイートも、低い土地では色が淡くなりやすい品種です。長野県では、おおむね標高500メートル以上が栽培に向く土地とされています。反対にシナノゴールドは、寒い土地で育つと酸味が強くなります。そのため県では、甘さと酸味の釣り合いがとれる温暖な地域を中心に勧めています。
同じ信州のりんごでも、どの谷の、どの高さで育ったかで表情が変わります。一つの県の中に、これだけ条件の違う土地が重なっている。信州の果物がおもしろいのは、そこだと思います。
酸味のあるりんごを、料理に
そのまま食べるなら甘い品種に目が向きますが、火を入れる料理には、酸味のしっかりしたりんごが合います。その代表が紅玉です。JAグリーン長野は紅玉を、強い酸味と煮込んでも崩れにくい果肉を持ち、お菓子づくりに向く品種として紹介しています。
紅玉は、私たちの好きな品種の一つです。冒頭のスープは、甘さよりも香りと酸味を前に出すように仕立てました。真っ赤な皮は乾かして粉にし、仕上げに散らしました。
このとき使った紅玉は、小諸市でご縁のあった方から分けていただいたものでした。どこで実ったかが分かる果物には、どこを残してどこに火を入れるかを考える手がかりが、たくさん詰まっています。
酸味は、魚の皿を支えることもあります。2025年の九月には、子持ち鮎の冷たい前菜に、青りんごと澄ませたトマトの泡をソースとして添えました。鮎の香りとほろ苦さに、りんごの爽やかな酸味が重なります。甘いだけではない果物だから、デザートの外にも出番が生まれるのでしょう。メリ・メロだから、この組み合わせになる。
りんごの季節の信州を、食卓で
信州の秋は、葡萄、洋梨、りんごと、果物が順に顔を出しながら冬の入り口まで続きます。どの品種がいつ、どんな状態で届くかは、その年の夏の暑さや秋の冷え込みしだいです。
そのため、コースの中でりんごをお出しするかどうか、どの品種になるかは、その年の実りと仕入れによって変わります。献立を先に決めず、届いた季節の恵みから組み立てるのが、私たちのおまかせコースです。コースの流れと料金はおまかせコースと料金で、生産者さんから届く食材のことは信州の食材でご覧いただけます。
晩秋から冬にかけては、営業の形が変わる時期があります。お出かけの前に、アクセス・営業時間で最新のご案内をご確認ください。
道の駅や店先で見かけたりんごの名前を、一つだけ覚えて帰ってみてください。名前を一つ知っているだけで、売り場のりんごの並びが少し違って見えてきます。
※ 品種の時期と特徴は、2026年9月時点で公開されている次の資料をもとにまとめました。JAグリーン長野「りんご」、長野県果樹試験場「りんごの品種育成」(2023年11月6日更新)、長野県農業関係試験場「新品種開発ストーリー」、JA全農長野「りんご三兄弟®」、JA長野中央会「長野県のおいしい食べ方」。